カイタッチ・プロジェクトの舞台裏(その1)
今回は、貝印の社員がユーザーのブログへコメントをつけに訪れる「カイタッチ・プロジェクト(KAI TOUCH Project!)」の裏側を中心に、同社がこれまでに行なってきたネットマーケティングへの取り組みから、今後やっていきたいことを質問しました。
(取材日:2009/2/23、取材場所:貝印株式会社、本社会議室)
今回インタビューをお願いした貝印株式会社について
有名なカミソリをはじめ、キッチンウェア、ビューティーケア用品といった生活用品から医療用品や業務用刃物など、1万点にも及ぶ刃物を作っている貝印株式会社。
創業は明治41年、日本最大の刃物の都、岐阜県関市で小さなポケットナイフ製造所からスタートされており、2008年で100周年となる歴史のある企業です。
インタビューは文字数にして約2万字になりましたので、6回に分けて公開します。今日が第1回で来週の月曜日に第2回、以降平日に公開していって金曜日に終了の予定です。
かなり濃い内容になってますので、ゆっくり味わって楽しんでください。感想もお待ちしています!
- 河野:
- 普段は取材される側なんですが、今回久し振りに取材する側なんで、ちょっと緊張しています(笑)
よろしくお願いいたします。 - 郷司&遠藤:
- よろしくお願いいたします。
- 河野:
- メインはカイタッチ・プロジェクトについてお話をお伺いたいと思っているんですけど、そこに入る前に、御社で特にネットまわり、ブログなんかもやってらっしゃるのも拝見したんですけども、これまでにやってこられた試みみたいなものをお伺いできればと。
貝印のこれまでの取り組みについて
- 郷司:
- はい、まず、僕らのウェブサイトの経緯をご説明していった方が理解していただきやすいと思うので、そこから説明させていただきます。2006年に、ちょうど貝印のウェブサイトリニューアルのプロジェクトをしようと、社内で持ち上がってましてですね。
当時、貝印がやっていたサイトって言うのは、いわゆるホームページで、一応、商品を紹介しています、以上。みたいなサイトだったんです。ちょうどWeb2.0というのが騒がれ始めていって、なんかできるんじゃないのって。
じゃあウェブサイトをもっと戦略的に使っていこうじゃないかということで、プロジェクトがスタートしました。とは言いいながらも、僕がプロジェクトリーダーみたいな感じでやってて、いかんせん経験がないものですから、何やっていいかわからんと、というところでちょっとずつやってきたんですね。
最初は全体的な構造であったりとか、その辺に普通に手をつけていって、ウェブだとかブログだとか、Web2.0と言ってる部分への取り組みっていうのは、考えに考えて、ちょっと答えが出せない、先送りにしてリニューアルを終えました。
- 河野:
- なるほど。
- 郷司:
- そうこうしている時に、最初のお客さまとのコミュニケーションとして、「Club KAI」というのを用意しまして、貝印としては初めて、お客さまと直接コミュニケーションすることにチャレンジしました。
それは普通にCRMソフトを裏で回しながらやっていくという、従来型と言うかですね、当たり前の試みだったんですね。ユーザーの方との関わりというのは、「Club KAI」っていう仕組みを使って、お客さまに商品をモニターとして提供して、コメントを書いてもらう、という試みです。
これ、他社様でもやってることですし、ただ我々としても一応、最初の試みとしてそれをやりました。それをやっていながら、じゃあブログに対して、どう関わっていこうかと考えてました。例えば当初ですね、著名な方だったり、貝印が関わっているインフルエンサーの方々のブログをちょっとまとめたブログ集みたいなのを作ろうかっていうことを考えていたんですけど、なんか……、おもしろくないと。
他にもまあいろいろと試行錯誤しながら、ぜんぜん手が打てなかったんですね。
- 河野:
- はい。
「呼び込むんじゃなくて、行きゃあいいんじゃない?」
- 郷司:
- ただその、じゃあ、Web2.0というかCGMというか、そういうものの根っこになっているのは、やっぱブログだよねと。お客さまのブログっていうのをどう取り込もうかっていうところで、ずーっと議論していてですね。
そのあたりから別のパートナーさんから話が出てきて、じゃあ、ブログなんとかできないのっていう議論を始めていったんですね。最初にやったのが「Club KAI」っていうのもあって、どうやってお客さまを囲いこもうかっていう視点がずっとあったんですね。
どうやって来てもらって、どうやって中でこう、回遊してもらおうかっていう話をずっとしている時に、「なんで、取り込まなきゃいけないの? なんで、囲い込まなきゃいけないの?」っていう議論になって。
その時に「呼び込むんじゃなくて、行きゃあいいんじゃない?」っていう話が出てきて、それがこのカイタッチ・プロジェクトに行き着いてるんですね。これ以外のCGMとの関わりっていうのは、ウチはあんまりなくてですね。まぁ、あえて言えばひとつだけ、今は終わってしまったんですが、「カン違いな使い方」っていう、若手芸人さんにウチの商品を使ってもらって、一発ギャグをやってもらったり、コントやってもらったりと。そういうのをやっていたんですよ。
その辺の動画を例えば、YouTubeの中に組み込んでどうなるかというのを見てみたりとか。あるいはその、芸人さんがやったコントだとか、そういったものに対して、ユーザーの方からいろんなコメントというか、アイディアというのを出してもらうっていうのは、やってたんですね。 - 河野:
- なるほど。
- 郷司:
- ただ、なんか消化不良というかですね、「なんなんだっけこれ、これして何になるんだっけ……」みたいなとこはずーっとありました。
いわゆるCGMというか、その辺に関するトライっていうのは、カイタッチを除けば、「カン違いな使い方」だけになっちゃうんじゃないかと思いますね。
- 河野:
- ありがとうございます。じつはその「囲い込む」ってこと、ぼくはほんとうに大嫌いで。でも、よく言われる人多いですよね。
ぼくも、まさに郷司さんがおっしゃったように「囲い込む」っていう発想が良くない、企業側がそういう風に上からモノを言うことが良くない、と思っていて。
だからさきほどの「行きゃあいい!」っていうのは、とても共感できるんですけども、それはある日、いきなり浮かんだものなんですか? ミーティングの途中とかで。 - 郷司:
- それはパートナー企業にいる女性のアイデアなんです。ベクトルを逆にしたらどうかという話になった時に、彼女が「じつはあたし、ずっとやりたいことがあったんです」と話を持ちだしてきて、そのベースがカイタッチだったんですね。あの時に彼女がたしか、そういうことを言ったんだよね?
- 遠藤:
- そうですね。
- 郷司:
- 僕ら、とにかく呼び込む呼び込むっていう、このベクトルを変えたいって考えるようになって。で、なんかこうなっていって。
でもそれだけ考えると、すごく手間のかかるイメージが湧くじゃないですか、それだけで気分が悪くなっちゃうくらいの(笑) - 河野:
- なりますね(笑)
- 郷司:
- でも、その時に効率だとか、システムだとかじゃなくて、けっきょくその議論も例の、お金払って書いてもらう話じゃないですけど、金だとかシステムだとか、上っ面のモノが多い中で、誠意とか熱とか温度とかっていうのを伝えていきたいじゃないですか。
その時にこっちから同じ目線で、歩み寄っていくっていう、その彼女のアイディアっていうのがすごく、その場でみんなが一瞬で「それですね!!」っていう流れができたんですよね。後はもう、自然に転がっていったという感じですかね。
- 河野:
- いい話ですね。ところで社内の他の方からは反対がなかったんですか? それこそ非効率だろって指摘はきっと出ると思うんですけど、それは出なかったんですか?
- 郷司:
- えっと、それは最初から言いました。めちゃめちゃ効率が悪いプロジェクトなんですけど、やってみる価値があると思います、ということで。
- 河野:
- なるほど。
- 郷司:
- ウソついてもしょうがない(笑)
- 河野:
- そうですね(笑)
- 郷司:
- で、実際、ウェブチームって、彼女とあともうひとり男の子の、この3人しかいないんですよ。
しかも我々、一応、経営企画室ということもあって、ウェブだけやってりゃいいっていうんじゃないんで、めちゃめちゃリソースが少ないねと。
こんな効率悪いのは大変だけど、「頑張ってね!」みたいな(笑) - 河野&遠藤:
- (笑)
- 河野:
- そこは「頑張りましょうね!」ですよ(笑)
- 郷司:
- 「オレも頑張るからさ!」みたいな(笑)
(取材日:2009/2/23、取材場所:貝印株式会社、本社会議室)
ぼくがブログで「本当のカンバセーショナルマーケティング」の一例として、このカイタッチ・プロジェクトを紹介した際に書いたように、企業ブログに来てください、イベントに来てください、ではなくて、自分たちがお客さまのブログを訪問してコメントすることこそが、企業と消費者との対話の第一歩だと思うのです。
4 comments
公開おめでとうございます。続きが楽しみです。できれば、取材された日時、場所などの情報もあるとうれしいです。
nakataさん、コメントありがとうございます!
なるほど、取材日と場所は追加しました。
公開おめでとうございます。
カイタッチ・プロジェクトの裏側をチラリと覗き見できる気がして楽しんでいます。
河野さんの相づちが「ほぼ日」的でなんか素敵でした。
続きを楽しみにしています。
coroさん、コメントありがとうございます!
あと5回ありますので、もっと裏側をお伝えできると思います。続きを楽しみにしていてくださいね。
相づちは意識してないんだけど「っぽく」なってますかねw
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