カイタッチ・プロジェクトの舞台裏(その2)
カイタッチ・プロジェクトの運営体制はどうなっているのか、カイタッチ・プロジェクトを始めるにあたって社内の反対とかはなかったのでしょうか。そのあたりについて伺っています。
社内で反対はなかったのか?
- 河野:
- これまでにぼくがお手伝いしている会社でも、ちょうど似たような話が出たことが何度かあって、そういう時に、当人たちはすごく納得してるんだけど、上とか横とか、組織上の一歩出たところで、けっこうナーバスな声が出てきて、そこでなんか足踏みしちゃうみたいなことがあるんですね。
ぼくとしては、ほんとにこういう試みが、まさに貝印さんだけじゃなくて、いろんな会社の人がやっていけばいいなって思っていて、そういう周囲の反対を突破する、まあ、ノウハウって言うと微妙なんですけど、少しみんなが参考になるようなお話が聞ければなと思っているんですよ。
- 郷司:
- なるほど。そういう意味では、僕らは環境的に恵まれていたと思っています。それは僕らがウェブプロジェクト始める前のウェブというのが、そもそも社員含めて、誰も注目してなかったんですね。そういう中で、なんかあいつらウェブやるらしいねみたいな。
僕、「ウェブ王子」って一時、言われていて(笑) - 河野&遠藤:
- あははは(笑)
- 郷司:
- で、なんかやるらしいと。
さっき言った、「Club KAI」がおかげさまで会員の方も一万人くらい集めることが出来て、周囲に対するフィードバックもお客さまから直接、お声を頂いて。
それを開発にフィードバックするということを、ちょっとずつやっていった中で、「なんかちゃんとやってるっぽいな、あそこ」という評価がそれなりあったという点と、もうひとつラッキーだったのが、組織的にですね、社長からの直接的な意思決定を仰ぎやすい部署に僕たちがいるんですね。 - 河野:
- ああ、経営企画室ですしね。
- 郷司:
- はい。僕たちの上司が、色々な面で社長とのコミュニケーションを多くとっているんですね。
あとは、何より社長が、カイタッチ・プロジェクトにすごく可能性を感じてくださったようで。 - 河野:
- 以前、ユニクロの担当者と話をした時も、UNIQLOCK(ユニクロック)っていうブログパーツを作った時に社内の反発はなかったんですかって聞いたんですけど、あれはもう、社長の柳井さんに直接言って、柳井さんがゴーサインを出したから、まわりが何も言えなくなったっておっしゃってましたね(笑)
(編集部注:2008年9月に行なわれたMarkeZineのイベントでのこと。参考1、参考2) - 郷司&遠藤:
- あははは(笑)
- 河野:
- わりとそこは、彼は戦略的に動いたって言ってましたけど、まあ、このへんはひとつの方法ですよね、早めにトップにオッケーをもらっちゃうという。
- 郷司:
- そうですね。そりゃ、社長とのコミュニケーションが多いというのは、いろいろな面でアドバンテージになると思います。
とはいえ、影での気遣いというのは、一応、あるんですけどね。 - 河野:
- そうでしょうね(笑)
- 郷司:
- 一応、今までの会社のサイトに対する意識のギャップと、何より社長とのコミュニケーションというのが一番大きかったなと思いますね。
- 河野:
- ありがとうございます。参考になります。
実際、今は少数精鋭でやられているっていうことなんですけど、それ以外にアルバイトの方とか、あるいはアウトソースするとか、ほかに人手はいないんですか? ほんとに3人でやってらっしゃるんですか? - 郷司:
- はい。ほんとに内部のこのメンバーだけですね。
最近、僕はあまりやれてないんですけど、彼女が中心になって、あともうひとりのスタッフとで、地道にやってます。もちろん作業をアウトソースすることも考えはするんですけど、実際、やってみるとですね、これは全然「作業」じゃないんですよね。
お客さまの声に答える時に機械的な返答はできないっていう問題と、あとやっぱり、けっこう商品に対して深い質問だとか疑問が出てくるので、アルバイトの方が来てもわかんないと思うんですよ。「この商品なんですか?」から始まるわけで、それがちょっと、どうやっても無理があるなと。
じゃあ、うちのスタッフが完璧にできるかというと、実際に販売しているわけでもないし、商品のことも完璧にはわからないので、質問があったら一個ずつ、社内に質問していくしかないんですよ。毎回、他の部門に確認しながらやってます。 - 河野:
- そうですよね。わかります。
- 郷司:
- そういうことを考えると、やっぱり上っ面だけ、業務量を削ろうっていう発想は、このプロジェクトには向かないっていうか、もともと、そこは目をつむって始めてるプロジェクトなんで、ま、そこしょうがないなと。
次の展開として、代わりの手立てを考えてますけど、今のところは地道にやっていこうと。サイトにも「行けなかったらごめんなさい」って書いてあるし(笑)
- 河野:
- 書いてますね(笑)
- 郷司:
- (見落としたりして訪問できないというのは)誠実にやってるからこそ、起こりうることで、それに対してのクレームは来ないだろうと。
基本的なこのコンテンツの主旨は性善説に立ってますんで、それじゃないともう、どうしようもない話ですんで。 - 河野:
- まあそうですよね。
カイタッチ・プロジェクトの裏側
- 河野:
- ところで実際、どうやってブログを見つけてらっしゃるんですか?
ぼくもあえて申請とかせずに、書くだけ書いてほったらかしにしてたら、遠藤さんがコメントを付けに来てくださったんですけど。 - 遠藤:
- ええ(笑)
- 郷司:
- めちゃめちゃ、システマティックですよね、そこは。ウソです。検索してます!(笑)
- 遠藤:
- 検索して(笑)
- 河野:
- あははは(笑)
- 遠藤:
- ほんとに日々、普通の検索エンジンですとか、テクノラティであったり、Googleブログ検索だったり、Googleアラートであったり、あの辺のツールをとにかく使って、毎日探してます。もう純粋に検索してるだけっていうのが、正直な話です……。
- 河野:
- ああ、それはわかります、それ以外に手段がないんですよね。
- 遠藤:
- そうですね。
- 河野:
- ぼくも実際、自分の本の感想をブログに書いてくれてる方には全部、コメント付けて回ってるんですけど、やっぱりGoogleアラートとかトラックフィードとかブログ検索とか使うしかないんですよね。で、ひとつだけ使ってるとけっこう漏れてるじゃないですか(笑)
- 遠藤:
- そうですね(笑)
- 河野:
- だから、あれやこれやとたくさん、使わないといけないし。
- 遠藤:
- ええ。
- 河野:
- なので、すごく手間がかかってることは実感としてもわかるんですよ。
そこで質問なんですけど、実際問題として、これを来年再来年と、今後も続けていくかどうかのジャッジっていうのは、どういう風に考えてらっしゃいますか?
お客さまの声に直接触れて、悪いことなんて、絶対ない
- 郷司:
- 10月スタートなので、もう4ヵ月になるんですけど、その中で、定性評価と定例評価というものが当然ありますよね。
まず定性評価に関して文句なしで、効果があると思ってます。
ひとつひとつのお客さまのコメントの内容であったり、我々がコメントしたことに対する、さらなるコメントであったりとかの中を見ていて、僕らが意図していた、誠実に気持ちを伝えていくっていうか、熱を伝えていくっていうか、そういう当初の狙いは完全に果たせているので、非常に評価できるなという風に思っています。弊社には「週報」っていう制度があってですね、全社員が週に一度、気づいたことをイントラネットに書きこむんですよ。5行、120文字くらいかな、まあそれくらいの文字数でなんか書きなさいっていうのがあってですね。その中で、このプロジェクトとはぜんぜん関係ない社員がカイタッチ・プロジェクトを見たらしく、「なんかこういうのやってるね、おもしろいね」みたいな、社内の評価がそこで確実に出てるんですよ。
そういうまわりからの、まあ当人たちは支援してるつもりはないかもしれないですけども、僕らからすると、もう絶大な支援ですよね。
そういうコメントがだんだんと見えているというところを含めても、社内外の評価は出てきているなというところをまず感じています。 - 河野:
- それは素敵ですね。
- 郷司:
- 定量評価というか、数量の問題に関しては、もともと大変なのはわかっていたんですけども、それでも目標として、各自がコメントする件数は設定してるんですよ、一応。そこに対しても、なんとかクリアしていますと。
あと、やってるとですね、内容が嬉しいので、ほんとに真面目に答えたくなっちゃうんですよ。僕ももっとやりたいんですけど、なかなかできてないんですけどね(笑)
けっきょく、ボリュームっていうのは、同じ熱を持ってる人間の数に比例するだけですから、やる人数が増えれば、もっともっとボリュームが出ていくと。
今、定性面で非常に評価できるなという判断してますんで、事前にいただいた質問の中にもあったと思うんですけども、今後考えていることっていうのは、これを全社プロジェクト化しようっていうことですね。
全社員が、さっき申し上げた「週報」と同じように、週に一回、誰かお客さまのところに行って、コメント書いてきてくださいと、こういう風にしようかなと。
ガイドラインも設けずに、素直にやってくださいと。その代わり、やるからには会社の利益代表でもあり、ブランドマネージャーでもあるわけですから、その辺をちゃんと認識しながら、誠実にやってくださいね、という形に持っていきたいなと思ってます。
まぁ、一過性のプロジェクトにする気はまったくないですね。
- 河野:
- おー。全社化すると、すごい楽しみですね。
- 郷司:
- そうですね。そうすることで、経理の人であったりとか、倉庫の人であったりとか、もちろん開発の人とかも含めて、お客さまの声を普段は聞けないスタッフが、お客さま直接触れていくこともできますよね。お客さまの声に直接触れて、悪いことなんて、絶対ないはずなんで、そういうプロジェクトにできたらいいなあと思ってますね、今。
- 河野:
- 素晴らしいです。まったくその通りですね。
(取材日:2009/2/23、取材場所:貝印株式会社、本社会議室)
カイタッチ・プロジェクトを全社プロジェクトにしたいと語る郷司さん。彼が語った「お客さまの声に直接触れて、悪いことなんて、絶対ない」という言葉は深いですね。
遠藤さんが一生懸命、検索してぼくのブログに辿り着いたのかと思うと、それだけで感動も倍増しますよね。こういう手間が継続的にかかる活動を嫌がり、すぐにアウトソースする企業が多い中、これはそういうもんじゃないと自分たちでやり続けているのはすごいことだなと感心しました。
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