カイタッチ・プロジェクトの舞台裏(その6)
ついに最後です。ここではカイタッチ・プロジェクトを通じて感じたコミュニケーションの難しさと、貝印として今後やっていきたいことについて伺っています。ぼくも自分のコミュニケーション論をけっこう熱く喋っちゃいました。
衆人環視下でのコミュニケーション

- 河野:
- あ、そうだ。コメントをつける練習とかは、されたんですか?
- 郷司:
- 特にはしてないです。最初は、ドキドキするんですけど、みんなそれぞれ書かせて、自分なりの文体もありますんで、それで僕が全員が書いたのを一回見てですね、まぁ、そんな変なの、ないじゃないですか。
- 河野:
- まあ、ないですよね。
- 郷司:
- じゃあ、あとはみんな好きにしようよ、ということで。
ただその、何かを悪く言ったりだとか、あとはフレンドリーになるのはいいけど、当然、相手はお客さまなんで、一定の節度を持って接するとか、そのくらいですね。それ以上やるとなんか堅くなっちゃうんで。
- 河野:
- 機械が書いた文章みたいになっちゃいますからね。
- 郷司:
- まぁ、そこの基本スペックは日々の業務で鍛えてあるはずなんで、という認識のもとで(笑)
- 遠藤&河野:
- あははは(笑)
- 郷司:
- 最初だけだよね? 文面を見たのは。
- 遠藤:
- そうですね、最初だけ一応チェックをして、まぁ、基本的にこの姿勢であれば、大丈夫でしょうという形で。
- 郷司:
- あとは一応、後で見れますんでね、全部。そこで見てますけど、やっぱり変なのはないんで、今はもう安心してます。
- 河野:
- 実際にぼくのブログに遠藤さんが残されたコメントもそうだし、他の人のブログに残されてるコメントもいくつか見たんですけど、距離感がすごくうまいなと思ったんですよね。
このコミュニケーションにおける相手との距離感って、けっこう教えるのが難しいと思ってて、まぁ、社内でも距離感が取れない人っているじゃないですか?(笑) - 郷司&遠藤:
- あははは(笑)
- 郷司:
- 私とかそうですね(笑)
- 河野:
- またまた(笑)
ましてや、特にネットのやり取りって、それまでのカスタマーサポートみたいに、1対1じゃないじゃないですか。
これまでの顧客対応って基本的にメールとか電話とかクローズドな環境ですよね。もちろん録音したりコピペしたりして、どこかに公開されることはあるんですけど、まあそんなことはほとんどないわけです。でも、ブログにコメントを付けるっていうのは、その瞬間に、それが10人か100人か1000人かわからないですけど、ぜんぜん関係ない第三者がたくさんいる、衆人環視のもとで、1対1のコミュニケーションやるんで、ちょっと慎重にならざるを得ないなと思っていて。
そこでまさにおっしゃったように節度な距離感を取るっていうのは、ひとつのスキルだと思っているので、ぼくはもうちょっと、社内でトレーニングされてるのかなと思ってたんですよね。
いや、すごいなと。 - 郷司:
- ありがとうございます。でもこのために何かをしたとかはないですね。
- 遠藤:
- 結果的には、なんですけど、私自身はたとえばメルマガのチェックやお客さまへのご案内を担当していたのが、役に立ってると思います。
そういうコミュニケーションは、業務としてやっていたんですね。
その時の一応、感覚値みたいなのはあるので、私としてはそれがもっと1対1の密なものになったという感覚なんですね。我々、本当に実務をやっている者としては。 - 河野:
- なるほど。まったくのまっさらということでは、なかったと。
- 郷司:
- まぁ、僕たちの日々の業務というのはそういうことばかりなので。
コミュニケーションの本当の難しさ

- 郷司:
- あとは指針というほどのことではないんですけど、いくつか徹底したことがあります。まず、自社製品はプッシュしないこと。それから、人を悪く言わないこと。最後に、感謝の意を持って接すること。これぐらいですかね、あ、あと、ウソをつかない。わかんないことはわかんないって言う。これぐらいですね。
でも、これぐらいの決めごとがあったら、書けることっておのずと決まってくるはずなんですよ。あとはまぁ、みんな会社の代表でやってるという意識を持ってやってますんで、一般社会人ならなんとかなるでしょう、って思ってます。
ただ、全社プロジェクトとする時はちょっとね(笑) - 河野:
- そうですね、さすがにいろいろありそうですしね(笑)
- 郷司:
- ちょっとね、怖いんで(笑)
いきなり、はいスタート、っていうわけにはいかないと思ってますけど。まぁでも、スタッフのスキルってのはあると思いますね。多くの人には簡単なことでも、やっぱりできない人っていますから。今のところは、スタッフに恵まれているっていうことじゃないですか。(コメントの文面に対して)線引き、引けないじゃないですか。
- 河野:
- 引けないですよね。
- 郷司:
- これは95点だとか(笑)
- 河野:
- それは難しいですね(笑)
けっきょく、最終的には、表に出さなきゃわかんないじゃないですか。こっち側で、これはいいんじゃないって言ってても、出してみたらすごい怒られることだって、あるわけですし。
特にコミュニケーションの難しいところって、単純にそこにある言葉や文章がどうこうじゃなくて、読み手が、たとえば前の日にすごいいいことがあったら、多少のヤバいことでも笑って受け入れてくれるし、でも彼女にフラれた後だったら、ちょっとしたところでイラッときちゃって、怒ったりするんで。
同じ文章を出しても、受け取り手側の精神状態で、ぜんぜん印象が変わったりするんで、そういう意味ではトレーニングや準備の限界はあるんですよね。 - 郷司:
- あとは書いたことに対しての、コメントを必ず全部チェックしてるわけじゃなくて、こっちはある意味、書きっぱなしになっちゃってるところがありますので、後で見返して「あー、マズかったかな……」みたいなやつはあるかもしれません。ないように祈ってますけどね。
ただ、お客さまの反応を見きれてないといったところは、さっきと一緒で、今後の課題のひとつではありますよね。今のところは喜んでくださってるコメントが多いですけど、もしかすると「なにこれ!?」みたいなのが出ているのに放置している可能性もあるわけですから、そういう意味では怖いですけどね。
まだまだ、先は長いな……。
- 河野&遠藤:
- あははは(笑)
- 河野:
- でも、本当に大きな取り組みだと思います。
実際に、どの会社もやってないことでもありますし。数字が当初、読めなかったっていうのも、前例がないことをされてるんで、当然だと思いますし。ぼくも今日伺うにあたってけっこうな件数を拝見したんですけども、あれだけの喜びようをブログ上で表現することって、そうそうないですよね、ひとり一人が。
だから、誕生日とかもちろん、その人にとってのハッピーなイベントがあれば、すごくテンション上がって書くんですけど、それに匹敵するぐらい、彼らの心理変化を起こしているなと。
- 郷司:
- あ~、そうですか。
- 遠藤:
- ありがたいですね。
- 郷司:
- ちょっと、社長に言ってもらえないですかね。
- 全員:
- あははははは(笑)
- 遠藤:
- ちょっと、給料日前くらいに(笑)
- 郷司:
- ボーナス査定時期ぐらいに(笑)
- 遠藤:
- そうですね、ボーナス査定前日ぐらいがいいですね(笑)
- 河野:
- あははは(笑)
今後の取り組みについて

- 河野:
- ではそろそろ最後の質問に。
今後、全社プロジェクトにするとか、現状の課題について、たとえばコメントのコメントをどうしていくかをすでに伺ったんですけど、それも含めて、これからどういうことをやっていきたいと思ってますか? - 郷司:
- 全社プロジェクトにしたいっていうのはあくまでも手段なんです。あくまでも経営企画室という立場の中で、マーケットコミュニケーションに、よりみんなが関わっていこうという話なんですね。
- 河野:
- はい。
- 郷司:
- 一番狙っているのは、そこなんですよ。会社全体のマーケットコミュニケーションに対する意識を高めたいので。
その中で社員ひとり一人が少しずつ、お客さまのブログの場をお借りする形になりますけど、そこに対して、積極的に、自主的に参加していくっていうのを、まず会社の思想として植え付けさせたいと思っています。そのためのひとつのツールとして、カイタッチを活かしていきたいということで。
もうひとつはせっかく始めてるプロジェクトですし、せっかく喜んでいただいているわけですから、この喜びの輪を拡大していきたいと思っています。ボリュームを追いたいということではなくて、クオリティを上げていきたいというか。
たとえば、コメントに対するコメントをどうするとか、僕らが手の届かないところって今後もずーっとあるはずなんで、その手が届かないところをどう埋めるのかではなくて、手が届かないところをどう表現していくかっていうところで、知恵をどんどん出し合ってやっていきたいなと思ってますね。
全部を完成させるのは無理なプロジェクトなんで、お客さまとのやり取りの中から、どれだけ気づいてどれだけ手を打つか、ということですかね。
- 河野:
- はい、ありがとうございます。とりあえず、そのコメント監視のやつは、できたらご連絡します。楽しみにしてください(笑)
- 郷司:
- ありがとうございます。嬉しいね! めちゃくちゃ(笑)
- 遠藤:
- そうですね(笑)
- 河野:
- 今日はどうも、ありがとうございました!
(取材日:2009/2/23、取材場所:貝印株式会社、本社会議室)
以上で終了です。約1時間、文字数にして2万字のインタビューはいかがだったでしょうか?
名刺代わりにと自分の本を持参してプレゼントしたのですが、「おわりに」の最後に書いた、
東京、恵比寿の自宅にて、「Galaxy Express 999」を聴きながら
を見つけて爆笑されてました(いい人だ)。

最後に同行してくれた藤田さんとぼくの感想を。
取材を終えて(藤田)
個人的にもこの取材で得るものは多かったのですが、もっとも印象的だったのは担当者の方のバランス感覚と、このひと言。
「マーケットの声に直接触れて、悪いことなんて、絶対ないはず」トレンドに流されることなく、何が自分たちにとって必要で、そうでないものは何かを見極め、地道に経験を積んできた結果として得られたものだと思います。
今回、インタビューの内容をほぼそのまま掲載しているので、ネットやブログに対してどう取り組もうかと悩んでいる企業担当者の方は、かなりヒントになることが詰まっていると思います。ぜひ参考にされることをお勧めします。
取材を終えて(河野)
本当のカンバセーショナルマーケティングは、企業の担当者がネット上のあちこちで「すでに」行なわれている会話に「自ら」参加することです。
それは企業ブログにトラックバックを送ってもらうことでも、ブロガーイベントを開催することでもなく(もちろんそれらは大事な試みだと思うけど)、ユーザーのブログを訪問してコメントを残し、そこで会話することだとぼくは考えています。そして、それを実際にやられているのが貝印さんだったのです。担当の郷司さん、遠藤さんに話を伺って感じたのは、地に足がついているなということです。自分たちがやりたいことと、今できることをきちんと整理して、その折り合いをちゃんとつけているのはなかなかできることではありません。
郷司さんは、ネットへの取り組みを手探りで慎重に進めてきた一方で、書き込む内容には特にルールを設けず、社員を信じて任せる大胆さも兼ね備えています。
遠藤さんは、ぼくへのコメントでも感じたことだけど、本当に距離感が素晴らしい。なれ合いにならず、それでいてフランクさを保った文章力は本当にすごいと思いました。今回の取材で、かつての企業ブログもそうでしたが、先例のない企業コミュニケーションは「顧客と繋がりたい」という強い意志を持った、優秀なプロジェクトチームの存在が不可欠なんだなと再認識しました。
こういう試みがもっともっと他の企業に広がっていくといいですね。
以下が、カイタッチ・プロジェクトのサイトです。

8 comments
なかなか面白く読ませていただきました。
河野さんのブログではプロジェクトのことを読んでいるはずなのですが、忘れていて、「なるほどそういうプロジェクトであったか」と。
#コメントがないとお嘆きの様子でしたので、記念にピト。
あはは。わざわざコメントありがとうございます。
とてもいい(進行中の)プロジェクトですので、こういうことを考えて実践している方の話が聞けてぼくも勉強になりました。
全6回終わりましたね。とても面白かったです。河野さんのお嫌いな(?)広告会社の新米なんですが、こういうことをできるのがこれからのコミュニケーションなんだろうな。と感じてます。本当に勉強になりました。これからも楽しみにしています。
coroさん、コメントありがとうございます。
広告会社にはこういう施策はできないでしょうね。でもこういうことはどっちにしても企業内でやらなきゃ意味がないので、クライアントには貝印さんの事例などを紹介してあげてほしいなと思います。
たいへん興味深く読ませていただきました。2万字のインタビューということで原稿を起こされるのも大変だったかと思いますが、読み始めると一気でした。ちょうど記事をみかけたときに、私が担当しているサービスでも、ブログマーケティングをどげんかせんといかん!と思っていたところだったので、ヒットしました。とても参考になりました。ありがとうございます。カイタッチプロジェクトのような事例を知ることができて、1歩踏み出す踏ん切りがついた気がします(よそ様のブログにコメントをつけるのは私自身これが初めてです)。カイタッチプロジェクト目指して頑張ってみたいと思います!
コメントありがとうございます(初コメントにも感謝です!)。
実際に「やらねば!」と思ってらっしゃる方に読んでいただけてうれしいです。今後の御社の取り組みについても、ぜひ聞かせていただければ幸いです。よろしくお願いします!
途中までしか読めていなかったのを改めて一気読みしました。
「距離感」を保つ力って元来、日本人にあってるような気もしますね。そう考えると出向くのはちょっとごめんよっていって粋な感じがします。なにより人っぽいのがいいですね。
あと、最近、企業サイトも対話のコンテンツを増やせたら良いのにって思ってて、自社でまず試してみようかなと思ってますが、トーキングjpいいですね。期待してます。
和田くん、コメントありがとう。
たしかに日本人に向いてる領域なのかもしれない。にも関わらず最近は組織が欧米化してきてるのか、すぐにリスクを語っちゃうので、この手のプロジェクトもなかなか前に進まないという話も聞きます。
とにかくたくさんの事例を紹介して、提案する方の背中を押したいなと思ってます。
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